2010年11月26日金曜日

オープンプラットフォームとは何なのか――DeNA「モバゲータウン」の戦略

 これまで“プラットフォーム”と言えば「情報端末や通信インフラを提供する企業」を指したが、クラウド※時代にはプラットフォームも「サービス業」となる。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)がプラットフォームとなり、その上にゲームアプリが搭載されるソーシャルゲームは、その先駆け的事例である。

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 SNSは自ら顧客を持つコミュニティサービスだが、その上にゲームアプリというコミュニティサービスがさらに載るという仕組みになっている。

※ユーザーがコンピュータのハードウェアやソフトウェア、データなどを自分自身で保有?管理するのではなく、サービス提供者側がコンピュータ処理を行い、ユーザーはネットワークを通じてサービスを受ける形のこと。

 この二重構造について、前回はゲームアプリ側から考えたが、今回はプラットフォームの役割について考えてみたい。前半はオープンプラットフォームの意味について解説し、後半ではDeNA(ディー?エヌ?エー)が運営するケータイ総合ポータルサイト「モバゲータウン」の事例を取り上げる。

●オープンプラットフォームの意味

 SNSサイトとゲームアプリのつなぎ目にあたるプログラムを「API(アプリケーション?プログラミング?インタフェース)」というが、この規格を公開することから今日のソーシャルゲーム市場が生まれた。Googleの「OpenSocial」という規格が標準的で、mixiでもこの規格を採用している。

 APIを用いることで、SNSのユーザープロフィールやフレンドリストなどの情報に連動させたゲームアプリを開発し、SNSのページに表示することができるようになった。ユーザーからすると、SNSのIDを持っているだけで、外部コンテンツプロバイダーの提供する多種多様なアプリを使うことができるのだ。

 IT業界では「規格を標準化し公開することが、参加者の増加を呼び、成功に結びつく」と言われる。そのため、規格の公開を総じて「オープン化」と呼び、オープンにすること自体を是としている風潮がある。しかし、オープン化の本質的な意味は、製品設計と企業間分業を決めることにある。オープン化自体を目的とするのではなく、「何についてオープン化すべきか」という判断基準を持つべきである。

 どの製品も複数の部品から構成されており、それを一企業ですべてまかなうのではなく、取引先企業とで手分けをして部品をつくる「企業間分業」が通常行われる。最終製品にするには分業した結果をひとつにまとめなければならないが、その部品間のつなぎ目(インタフェース)の設計が、分業の形態に大きく影響する。

 オープン化以前の分業では、お互いの仕事の分担や進捗状況を話し合う「調整」が必要だった。しかし、インタフェースを規格にして固定化すれば、取引先と逐一話し合う必要はない。さらに規格を公開することで、不特定多数との分業が可能となる。例えば、OpenSocialさえ守れば、誰でも機械的にSNSにアプリをアドオンすることができるのだ。

 オープン化は、ビジネスデザインそのものである。ソーシャルゲームという最終製品は何かと考え、どこを独立的に切り離し、どこに一体性を求めるのか。そして、プラットフォーム企業とコンテンツプロバイダーとの役割分担について考えなければならない。

●オンラインゲームの分業形態

 オンラインゲームが誕生して十数年、様々な分業形態が生まれてきた。その歴史をひもとくと、ソーシャルゲームは突如として現れたものではなく、分業の進化というトレンドの延長線上にあることが分かる。

 初期形態は、MMO(Massively Multiplayer Online、多人数参加型)と呼ばれるオールインワン型である。ID管理と課金システムは公式Webサイトで行うものの、ゲームコンテンツやコミュニティ機能はすべて、ダウンロードして別に起動するクライアントソフトに内包される形でセットになっていた。

 その後登場したのが、ゲームポータルである。「友人登録」「日記」「掲示板」「アバター」などのコミュニティ機能が、ゲームクライアントからWebサイトに移行し、「ゲームとコミュニティの分化」が起こった。オールインワン型の場合、プレイ履歴やフレンドリストなどの情報が、ゲームクライアントという閉じられた世界の中にあったので、そのゲームをプレイし終わると、そこで知り合った友人などすべてを手放さねばならなかった。しかし、そこでWebベースのコミュニティ機能を用意したことで、ゲームで知り合った友人と交流を続け、別のゲームをともにプレイできるようになったのだ。 

 ゲームとコミュニティの分化は、パズルなどのミニゲームを次から次へとプレイするカジュアルユーザーのゲームスタイルとマッチした。ゲームポータルでは、無料ミニゲームとコミュニティ機能による集客力を活用し、取引先の有料MMOにつなぐというチャネリング事業も行っている。

 ソーシャルゲームでは、コミュニティとゲームの分化がさらに進んだ。ゲームポータルでは取引先と調整をしながらチャネリングをしていたが、その部分をAPIという形で標準化し、誰でも自由にコンテンツを載せられる、調整活動不要の仕組みにしたのだ。さらには、WebサービスであるSNSとゲーム会社?アプリベンダーという異業種間の分業が成立している。

 このような流れで考えれば、ソーシャルゲームは進化の途中にあることが分かるだろう。気軽にゲームとコミュニティを楽しむサービスのあり方をめぐって、さらに適合的な分業形態へ進化すると予想される。例えば、APIというプログラムレベルの分業だけでなく、課金システムやマネタイズ手法など、サービス面での役割を詰めていく余地がある。

●モバゲータウンのオープン化

 この3月、モバゲータウン(モバゲー)が全面的にオープンプラットフォームとなる。モバゲーは1725万人(2010年2月末)の登録ユーザーを抱える携帯SNSサイトで、ゲームやケータイ小説などの娯楽コンテンツ、さらにはニュースや乗換案内などの便利ツールも提供している。2009年10月から内製ソーシャルゲームを始め、『怪盗ロワイヤル』などの人気ゲームを生んでいる。2010年に入ってからは段階的にパートナー企業のソーシャルゲームを公開してきたが、3月からはオープン化によって参加枠の限定がなくなり、法人であればどこでも参加できるようになったのだ。

 モバゲーのプラットフォームとしての特徴は、課金システムの整備とマネタイズ支援にある。モバゲーでは自社開発のゲームで既にユーザー課金を行ってきたノウハウがある。別の見方をすれば、ユーザー側が「課金慣れ」をしていることも強みとなる。

 課金システムというと、「携帯キャリア決済やクレジットカードなどの支払い手段の整備で終わる」と思われるかもしれない。しかし、「最初は無料で始めたゲームに対して、財布のひもをゆるめる」というユーザー行動にいかにマッチさせるかという、サービス運営上の課題が残されている。

 例えば「モバコイン」という仮想通貨の存在は、課金システムの大きな要素である。仮想通貨の発行は多くのオンラインゲームで行われていることであり、「ゲームプレイをする自分」から「支払いをする自分」に意識を切り替えるのに、よいクッションとなる。何かアクションをするたびに、100円、200円と現金を支払う動作を入れてしまうと、興冷めしてしまうからだ。

 独自の仮想通貨の流通?管理には、継続的な運営とノウハウが必要であるため、この仕組みを先行して持っていることは大きな利点となるだろう。外部のコンテンツプロバイダーでも、3割のレベニューシェアをDeNAに支払うことで、モバコインを通じた課金システムを利用することができる。

 そのほか、アフィリエイト(成果報酬型)やクリック単価型の各種広告プログラムなど、コンテンツプロバイダーのマネタイズ支援に力を入れている。面白いところでは、アバターアイテムを制作して販売する仕組みがある。ゲームアプリに連動したアイテムを制作すれば、モバゲー本体のSNSアバターに表示することができ、さらには有料販売することができる予定だ。ゲームで手に入れたアイテムをSNSの友人に見せびらかすこともでき、日記やランキング以外での新たな口コミ効果も期待される。

 DeNAは自身もゲームを制作運営していることから、ユーザー課金を念頭においたゲームのマネタイズに力を置いている。42社の101タイトルが稼働しているが(2月10日現在)、上位アプリは公開数日から2週間で売り上げが1日100万円を超えるという。「モバゲーオープンプラットフォームの強みは、『ゲームに特化』『強力なマネタイズ』『オープンな戦略』です。間口を広く敷居を低くし、多くの企業に参加いただけるよう進めていく予定です」(DeNA広報)

 SNSはメディアなのか、ゲームのプラットフォームなのか。ページビューを稼いで広告収入を得るのか、ユーザー課金を突き詰めるのか。SNSが自身をどのように位置付けるかによって、分業形態も変わってくるだろう。

 国内ではmixiに続いてモバゲータウンやGREEなど、SNSのオープン化が進んでいる。このまま発展していけば、SNS各社の戦略によって異なるソーシャルゲームが提示されるだろう。ソーシャルゲームとひとくくりにするのではなく、個々のビジネスのデザインに注目していきたい。【野島美保】

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引用元:SEO对策 | 福岡市

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